〈前置き〉
非必須アミノ酸の一つ。システインが天然にはL-システインとして存在している。体内ではメチオニンから合成される。皮膚、髪、爪などに含まれるタンパク質ケラチンの構成成分である。肌や髪のトラブル改善、美白、二日酔い予防などの目的で、錠剤型の健康食品として一般に広く販売されている。
L-システインの効果は、黒色メラニンの発生抑制、皮膚の新陳代謝亢進によるメラニンの排泄、アルコール代謝物であり、二日酔いの原因となるアセトアルデヒドの無毒化、疲れの改善など、様々な効果がうたわれている。
ではその機序について述べる。
①黒色メラニンの発生抑制について
そもそも、メラニン生成反応は酸化反応であり、それに対して抗酸化作用を持つ成分が美白、シミ、ソバカスといった症状改善を目的とする薬品に多く入っている。L-システインもその1つで、美肌効果目的の多くの薬品にはビタミンCと併合して入っている。
L-システインはメラノサイトという色素細胞でメラニンを作る際、チロシンキナーゼという律速酵素の活性を抑制することで直接メラノサイトに作用してメラニンの生成を抑制する。
アメリカなどで用いられている成分にメラノサイトに対する細胞毒性があるものも報告されているがL-システインは非常に低いので安心である。
②アセトアルデヒドの無毒化について
簡潔に言えばL-システインは間接的、直接的にアセトアルデヒドに作用している。具体的には、L-システインはSH基を有する含硫アミノ酸で、グルタミン酸、グリシンとともに解毒機構で重要なグルタチオンの原料となる。生体内でSH供与体として働き、アルコールの代謝を促進するSH酵素のアルコール脱水素酵素とアセトアルデヒド脱水素酵素を活性化する。また、アセトアルデヒドと直接反応し無毒化する。
③肌の新陳代謝亢進によるメラニン排泄を促す効果について
まず、新陳代謝とは古い細胞が新しい細胞に入れ替わることを指す。肌における新陳代謝をターンオーバーとも言う。
L-システインが身体の新陳代謝を亢進させ、結果として肌の新陳代謝を亢進し、余分に作られ表皮細胞内に蓄積されたメラニンの体外排出を促す。
④疲れ改善について
これは確かな機序はわからない。ある実験ではL-システイン製剤を飲んだ被験者と飲まなかった被験者で疲れの改善に差が出た事が報告されている。しかし、疲れの基準は個人差があり、またプラシーボ効果の可能性もある。もしこの効果が確かなものであるならば身体の新陳代謝に関わっているのだろう。
〈副作用〉
L-システインを大量に投与するとβ細胞からのインスリンの分泌が抑制されることが報告されている。
まずインスリンの正常分泌には細胞内の一時的ATP濃度上昇が必須である。
しかし、細胞内L-システイン濃度上昇により、グルコースが細胞内で代謝されてATPへと変換される過程(解糖系やクエン酸回路などの代謝系)において、グルコース分解過程の最終産物であるピルビン酸とその先のクエン酸回路の代謝物量が減少する。これは細胞内でピルビン酸を産生する酵素であるピルビン酸キナーゼがL-システインによって活性が低下することによる。また、その際に特に重要となるピルビン酸キナーゼがPKM2であるのだが、細胞内L-システイン濃度が高い場合、ピルビン酸キナーゼ活性を持つはずのPKM2の四量体がほとんど存在せず、むしろ不活性型である単量体や二量体へと変換されてしまう。つまり、L-システインがPKM2の四量体形成阻害による活性抑制を介してピルビン酸、ATPの産生阻害が起こり、最終的にインスリン分泌を抑制する。
また、L-システインの代謝物である硫化水素も同様にATP産生阻害を介して膵β細胞のインスリン分泌を抑制しているという報告もある。
このような機序で、過剰なL-システインを摂取すればインスリン分泌に影響を与え、2型糖尿病の発症、悪化の可能性があるということだ。通常の美白として処方される量で内服するのは問題ないと思われる。
〈ハイチオールcプラス 成分(6錠中)〉
L-システイン 240mg
アスコルビン酸 500mg
パントテン酸カルシウム 24mg
《総括》
L-システインは美肌目的としてはよい効果があるのは確かだ。
食品では小麦胚芽(はいが)、ブロッコリー、ニンニクなどに少量含まれているが、必要量を全て食事から直接摂取することは難しい。しかし、体内合成できるので必ずしも食事から摂取する必要性はない。L-システイン合成量を増やすなら、それを合成する素となるメチオニンを含む食品(大豆、鶏肉、ホウレン草、カツオ、イワシなど)を補うとよいだろう。
シスチン、メチオニンの1日あたりの推奨摂取量は、WHOによれば量「体重1kgにつき15mg」で、これはシスチンとメチオニンを合算した数値である。体重50kgであれば750mgであるが、体内合成できる分、少なめに摂取するとよいだろう。
しかし、先述したように、大量摂取は2型糖尿病を招く、悪化させる可能性があるので注意が必要である。
日常生活においては欠乏しがちではあるが、わざわざサプリメントで飲む必要はないと思われる。少なくとも、2型糖尿病既往の方には推奨できない。